河内長野はかつて木綿の生産が盛んで、河内木綿(かわちもめん)は河内地域の特産品として全国にその名を知られるほどでした。

白くてふわふわな綿から作られる木綿糸や木綿布は、基本は白色です。江戸時代、全国各地の木綿の特産地では染め方や織り方に工夫を凝らし、木綿ブランドそれぞれの特色がありました。
河内木綿といえば、藍染めが代表的。
深みのある紺色が味わい深く、染めることで丈夫になり、紫外線カットや虫除けの効果もあるなど機能的にも優れています。

なかでも目を引くのが、型染めした河内木綿。
和モダンで、とてもおしゃれだと思いませんか?
河内木綿(菊花唐草文)ふるさと歴史学習館の展示より
このような型染めは、お客様用の布団やお嫁入りの際に持っていく布団の表地に使われていたそうです。「普段使いの木綿は無地や縞模様で充分。でも特別な日のための木綿は、綺麗な絵柄つきのものを…」そんな、昔の人の心遣いやおしゃれ心が感じられますね。

これらの文様は、紺屋型紙を使って染められていました。

美しい文様を生み出す「紺屋型紙」とは

河内長野市立ふるさと歴史学習館には、伝統的な河内木綿や、それにまつわる道具や資料がたくさん所蔵されています。
型染めに使われた紺屋型紙も常設展示されていて、動物や植物をモチーフにしたさまざまな文様を見ることができます。

紺屋(こうや・こんや)とは、染物屋さんのこと。
河内長野市域には大正時代頃まで紺屋さんがあり、市内で織られた木綿を染めていたそうです。
木綿の型染めは江戸後期には行われていて、館に展示してあるのは当時実際に使われていた、染め物用の型紙。
その文様は約二百年後を生きるわたしたちが見ても美しく、職人さんが手作業で彫った図案の細かさに驚かされます。
紺屋型紙、6月の常設展示

◆染め方
染め方は、防染糊(ぼうせんのり)を使った型染め技法です。
まず、白地の木綿に型紙を置き、上から防染糊(ぼうせんのり)をつけます。糊が乾いたら型紙を剥がします。それを藍ガメに浸したり、刷毛で染料を塗ったりして染めると、糊がついた部分は染まらずに白く残るので、白抜きの模様ができるという仕組みです。

◆型紙の素材
型紙は紙製で、和紙を重ねて柿渋を塗り、いぶしたものが用いられました。(柿渋紙)


学芸員さんに聞いた、文様の由来

ふるさと歴史学習館が所蔵する紺屋型紙は、嫁入り布団の柄として使われたものが多いそうです。
松竹梅や鶴、亀など、縁起のいいデザインが多いのが特徴で、文様にはそれぞれ意味があります。
紺屋型紙カンバッジ、ふるさと歴史学習館

←写真は、紺屋型紙デザインの缶バッジ。
ふるさと歴史学習館で歴史クイズに答えてもらったものです。





可愛いすずめ柄もあります。ふっくら丸いお腹が特徴のこのすずめは「福良雀(ふくら雀)」というそうで、やはり縁起のいいデザインなのですね。
紺屋型紙クリアファイル「竹にふくら雀」



←写真は、紺屋型紙デザインのクリアファイル
ふるさと歴史学習館はじめ市内各所で発売中です。




ふるさと歴史学習館には、紺屋型紙が約1600点も保管されています。
近年、高向地域にあった紺屋さんから型紙がたくさん見つかり、河内長野市に寄贈されたそうです。

ちなみに型紙は紺屋さんが作るわけではなく、型紙の特産地である伊勢の白子(現在の三重県鈴鹿市)のものを行商人から買って使っていました。伊勢の型紙は紀州藩の保護を受けて発展し、行商人が全国を売り歩いていたそうです。

学芸員さん曰く、高向で見つかった型紙を見た八尾の職人さんが、「ここのはセンスがいい」と感心したとか。高向の紺屋さんは、染め物だけでなく型紙買い付けの腕も優れていたようですね。

季節もののデザインも。紺屋型紙の常設展示

ふるさと歴史学習館では紺屋型紙が常設展示されていますが、その内容は時期によって変わります。
これまで、それぞれの季節に合った趣ある型紙を見ることができました。

こちらは6月下旬の展示。うちわやひょうたんなど、夏にちなんだデザインです。
紺屋型紙、6月の常設展示
左上:扇面 団扇散らし文  左下:瓢箪散らし文
右は、陰陽菊花文で型染めされた河内木綿の布団地です。

一方、10月下旬は秋模様。月と兎のデザインが、お月見の季節にぴったりですね。
紺屋型紙、月と兎文、菊花丸に唐草文、菊花唐草文
左上:月と兎文 左下:菊花丸に唐草文
右は、菊花唐草文で型染めされた河内木綿です。

12月半ばに訪れたときには展示内容は10月と同じでしたが、「1月頃にはまた新しい型紙が展示されるんじゃないかな」というお話をちらりと伺いました。
お正月らしいデザインもあるのでしょうか。楽しみです。


河内の木綿、伊勢の型紙、そして藍染めに使われた阿波の染料。
紺屋型紙と河内木綿の展示からは、地域の産業と職人の技術が感じられました。
粋な絵柄で染めた河内木綿を、人々はどのように使い大切にしたのでしょう。当時の人の暮らしに思いを馳せたり、アートや手作り、ファッションの観点から見ても面白そうですね。


【参考サイト】
>>河内長野市立ふるさと歴史学習館

河内長野の道の駅「奥河内くろまろの郷」のすぐそばです!
>>奥河内くろまろの郷

参考書籍:『綿と木綿の歴史  [新装版]』武部善人 御茶の水書房(1997)